2012年2月18日土曜日

小規模事業者(フリーランス・マイクロ法人等)と電子帳簿保存法

◆ペーパーレスにしたい

コンピュータの処理能力の向上、ストレージ容量の増大、通信速度の向上、クラウドの台頭、ドキュメントスキャナーの進化、タブレットやスマートフォン等端末の多様化、より使いやすいソフト・アプリの開発、SNSの流行などなど、これらIT関係の技術革新は本当に目覚しいものがある。

こういったものを駆使して、コワーキングスペースやノマドワーキングといった新しいワークスタイルが普及しつつあり、従来のようなオフィスを持たずに事業を行うというケースも増えているように感じる。
とりわけフリーランスやマイクロ法人()など組織に縛られずに働く方はそういう傾向にあるような気がする。あくまでも気がするだけだが。

マイクロ法人という正式な用語があるわけではないと思うが、ここでは「株主1人取締役1人だけの法人、又はそれに近い法人」という意味合いで使用している。

そのような形態であれば当然ながら業務に関連する資料はペーパーレス化をした方が利便性は高く、またそれを実現しようと思えばすぐにでも出来る環境は整ってきていると思う。

にもかかわらず、これを阻むのが「法律」であり、「領収書や請求書など」の経理資料だ。
経理資料なんて最も見たくない、最もペーパーレス化したい資料のひとつなのに、そういうものに限ってなかなか難しい。

「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」
→ 略して「電子帳簿保存法」
「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」  及び
「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」
→ 通称「e-文書法」
ちょっと調べればこのような制度があることに気が付く。

簡単に言えば、経理関係(国税関係)の資料も事前申請し承認を受けて一定の要件を満たせば、PC上で一定のソフトで作成したデータは印刷しなくてもヨシ、紙でもらった領収書等もスキャンしてデータ保存すればヨシ、というものだが。


個人的には、現時点では、フリーランスやマイクロ法人など小規模な事業者が電子帳簿保存法を適用してペーパーレスを目指すのは

ムリ  だし

ムダ  だし

ムキーッ!  ってなるからやらなくてヨシ!

という結論に。

なにせ要件が厳しく、コストもかかるため、ある程度の事業規模があって管理できる部署などがなければ運用は難しいと思う。
やってみようと思った人の多くはまずこのQ&Aを読むだけで挫折するのではないだろうか。
電子帳簿保存法Q&A|その他法令解釈に関する情報|国税庁

私自身も数年前に独立開業した際に、せっかくゼロからのスタートなので、ペーパーレスを目指すべく電子帳簿保存法の適用を検討したことがある。
が、ちょっと調べてすぐに興味を失ってしまった。
まるで、自分が便利になるためではなく、国のために手間とコストをかけてやってあげなきゃいけないようにも思えたから。



◆電子帳簿保存法の実績・最近の動向

2005年(平成17年)にe-文書法が施行、電子帳簿保存法も改正され当時はそれなりに話題になったと記憶しているが、その後あまり話しを聞かない。
せっかくなので同制度がどのような運用実績なのか調べてみると、
電子帳簿保存法に係る電磁的記録による保存等の承認状況について|報道発表資料(プレスリリース)目次|国税庁


これによれば直近データで累計承認件数が約12万件、前年比8.9%増とある。
母数が不明なので多いのか少ないのかよく分からない。

ちなみに、国税庁サイトに掲載されている統計情報によると、平成21年度時点の申告法人数は約260万社だそうだ。


単純にこれとの比較で見ると、法人関係の承認件数は約9万件なので、約3.4%ということに。(少ないような気もするし、多いような気もするし・・・。)

ただ、12万件とか9万件というのはあくまでも「電子帳簿保存法に係る電磁的記録による保存等の申請」に対する『承認』件数の『累計』である。
同制度は申請してから3ヶ月など一定の日までに承認又は却下の処分がなければ自動承認(電子帳簿保存法第6条5項)となり、却下されることはあまりないのかも知れないし、既に取り消されたケースもあるのではないだろうか。
よって、これらの数字がすべて実際に運用されている数という訳ではないのだろう。

ちなみに、運用されているケースも上場企業及びその関連企業などがほとんどではないだろうかと思ったりする訳だが、こちらのサイト(上場企業の連結子会社数/2010年度 | すうじスクラップ-市場動向データバンク-)によると、2010年度の上場企業の連結子会社数は約4万5千社だそうで。

と、なんだかんだ数字を挙げてみたが、結局のところは良く分からないのだが。


とにかく、いろいろと厳しい要件があるが、
  • すべての文書が電子保存出来るわけではない
  • 電子署名・タイムスタンプが必要
の2点だけみても導入する気は失せるというものだ。

1については、文書ごとに電子保存可能かどうかを判断しなければならず、却って管理は煩雑になる気がする。
2については、コストがかかりすぎる。
文書1枚ごとに約10円だとか、いや、1日分の文書をまとめてスタンプできるようになったとか、当社は定額制を導入しましただとか、なんかいろいろあるようだが、要するに金がかかるのである。

いや、正直に言うと、
上記で「ムリ」と書いたが、少し頑張れば要件を満たすことは可能かも知れない。
「ムダ」と書いたが、紙保存の場合だってコストはかかる訳だし、小規模事業者であっても電子帳簿保存の方がコストが安く済むのかも知れない。
とも思っている。
が、仮にそうであったとしても、個人的にはこの制度を使う気にはならない。
なんとなく「ムキーッ」となりそうだから、という極めて感覚的なものなのだが。

もちろん、制度の要件が厳しくなるのも理解は出来る。
やはり電子化してしまえばコピーや改ざんがしやすくなるので制度が悪用されるケースも想定しなければならない。
不正防止のためには、高額な領収書など重要書類は対象から外し、電子署名やタイムスタンプが要求されることはやむを得ないだろう。

ただ、それにしても使い勝手が悪すぎると思うのは大企業も同じようで、経団連も承認要求の緩和を求めている。
それもあって、現在国税庁から経団連宛に実態把握のためのアンケート調査の協力依頼がされているようだ。
日化協文書 【経団連】電子帳簿保存に関する国税庁アンケートへのご協力のお願い
どのようなアンケート結果が出て、それがどのように反映されるのか。
気になるところではあるが、期待は全くしていない。

ちなみに。
今回いろいろと調べた過程でこのようなセミナーがあることを知った。
(セミナー)必見! e-文書法&電子帳簿保存法 の最新動向
無料だし、思わず申し込もうと思ったが、この時期だし、どうせ「やっぱ使えない制度」という結論になるのがなんとなく想像つくのでやめた。



◆自分のための電子化

では、電子化・ペーパーレス化を諦めるのかというと、これはやる。というか実践している。国のためではなく、自分のために。

こちらの記事(Blog the Minor: 私がせっせと領収書をスキャンする理由(本編))でも書いた通り、領収書など紙でもらった文書はすぐにスキャンする。
電子帳簿保存法の要件を満たすつもりはないのでもらった領収書等は紙のまま保存しなければならないが、紙はすぐにしまう。
また、コンピューター上で作成する資料は極力(必要な時まで)印刷しない。
こちらもやはり電子帳簿保存法の要件を満たすつもりはなく、まとめて処理することもあるし修正履歴も特に残していない。

そもそもペーパーレスを目指す理由として挙げられるのは
  • 保管スペースがない
  • 触りたくないし見たくもない
  • 紙だと検索できない
  • いつでもどこでも見れない
といった感じだと思う。

上記を実践していれば保管スペースの問題以外は一応満たされる。
国税当局や大企業などの組織のためにする電子化と違って、真実性の確保、つまり改ざん等がないことを担保する必要は基本的にない。
そのような不正をしないことは自分が一番良く知っているから。
当然ながらミスによるデータのダブりなどはないように管理しなければならないが。

最終的には紙で保存しなければならないので保管スペースの問題は残るが、残す文書・破棄する文書を厳選して最低限のものだけを残し、整理して極力スペースを取らないようにしている。
まぁ実際は小規模事業の場合の紙の量なんて整理してしまえばそれほど大したことはないことが多いような気もするが。

一般的には、特に経理関係や役所関係の書類などはどれが捨ててよくてどれを保管して置かなければならないのかという取捨選択の判断に迷うということが多いのかも知れない。
そういう判断や整理作業そのものが苦になることが多いのだと思う。
だからその辺の判断や整理含めて外部(会計事務所など)に投げてしまうというのはアリかも知れないし、単に紙が邪魔なだけであれば倉庫業者など外部に預けてしまえばスペースの問題も解決する。
結局この辺は委託コストとの兼ね合いだろう。
当事務所では基本的に原始資料はなるべくお預かりしない方針でいきたいが、もしそうしたニーズが大きければ検討しなければならない。



◆まとめ

まとめるほど大した内容をここまで書いてはいないのだが。

とにかく、電子化・ペーパーレス化というのはもはや避けられない流れであり、良し悪しは別にしていつかはそうなるというか、しなければならないのだと思う。

となれば、早めに取り組んでおくに越したことはない。
現時点では電子帳簿保存法の適用は難しいかも知れないが、法改正で要件が緩和されることがあるかも知れないし、すぐにでも取り組める準備だけはしておきたい。
あるいは、出来そうなところからちょっとずつ始めてみるとか。

簡単に電子化・スキャンしてデータ化といっても、ファイル形式やら保存媒体やらバックアップ体制やらいろいろ考えなければならないことはある。
紙と違って失うときは一瞬であるからこそ慎重に扱わなければならない。
いわゆる電子ファイリングの知識はきちんと身につけていかなければならないと感じている。
電子ファイリングというと大企業などをイメージするが、あくまで小規模事業者を前提とした電子化・ペーパーレス化に今後もこだわっていきたいと思う。



2 件のコメント:

  1. 丁度、探していたの参考になりました!(^^)!。
    フリーなのですが、Evernoteで保管とか法律上意味ないのですね。やはり、ノートにペタペタ張って整理するしかないですね。

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    1. Yoshiii 様
      コメント有難うございます!
      電子帳簿保存は面倒でとてもやる気にならないですね。
      といってノートにペタペタも個人的にはちょっと・・・。

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