2012年5月10日木曜日

これは読まんといかんたい! 「長崎年金二重課税事件-間違ごぅとっとは正さんといかんたい!」



書評なんて書くガラではないし大の苦手なのだが。
なんとなくこの本は「読んだ! いいね!」ということを言いたくなった。
というか、何でもいいから書かなきゃいけない、そんな気がした。


少し前に最高裁での逆転判決が出たとある税務訴訟について描かれたものである。
地裁の判決が出たあたりから話題となっていて、その後も随時税務関係のニュースなどでは取り上げられていた。
税理士をはじめ税務に携わる方であればほとんどが知っていたであろう、そのくらい有名な訴訟である。

税務訴訟というと、納税者の勝訴率はせいぜい1割程度と言われるくらい難しいもので、国を相手に戦うわけであるから相当の労力が必要になる。
そのため「大企業が国を相手に何十億何百億もの税金の還付を求めて訴訟する」というような、ごくごく限られたケースというイメージがある。
もちろん実際にはそんなケースばかりではないと思うが。

で、本件はといえば・・・・・・・・・25,600円。
たった25,600円の還付を求めて起こした訴訟である。
つまりオカネが目的ではない。
税理士が、国の誤った処理を正すべく、プライドを賭けて挑んだ戦いである。
(しかし、この納税者の方もスゴイというか、信頼関係が半端ないなとシミジミ・・・。)

この納税者は、ご主人が亡くなったことにより生命保険会社から死亡保険金と特約に基づく年金を受領していた。
その年金は毎年230万円を10年間かけて受け取ることができるもの。
この年金から220,800円の所得税が源泉徴収されていたことに江崎税理士が疑問を感じた、というのが事の発端である。
この年金(を受け取る権利・・・と書くと微妙かも知れないが)は、相続財産として相続税の課税対象となっている、ならば所得税まで課税されるのはおかしい、と。

これは遺族の方が年金として受給する生命保険金について、相続税と所得税が二重に課せられた「二重課税=違法な状態」が問題となった事件である。
ただ、ひとつの所得、ひとつの財産、ひとつの事象について複数の税が課せられるケースは本件のみならず数多くある。
それら全てが必ずしも違法な状態であるとはいえない。
よって、この「二重課税」という言葉が一人歩きしすぎても良くないのではないか、と思ったり思わなかったり・・・。



この戦いの舞台となったのは、まず長崎地裁。
本事件の影響でいまやすっかり有名となった感はあるが。
そこに至るまでに、前哨戦というか、さまざまな手続きが行われていた。
まずはその源泉徴収された220,800円の所得税の還付を求めて更正の請求。
それに対する税務署側の更正処分、さらにその処分に納得がいかず異議申立て、審査請求、といった感じ。
実は、そのやり取りの中で、還付請求額220,800円のうちの20万弱、つまり大半は既に還付されていた。
だだ、問題は、その還付理由が年金そのものが所得税の非課税として認められたものではないということ。
漏れていた扶養控除等を適用して再計算した結果に過ぎないので、当然ながら納得出来るものではない。

あと残りの25,600円の還付、というより当該年金が所得税非課税であるという事実、これを求めて長崎地裁へ話が続くわけである。
そしてその後の高裁での敗訴、最高裁での逆転勝訴という実にドラマチックな展開となるわけであるが。
その間の生々しい心理描写や具体的な裁判の流れ、証拠資料など、架空の話ではなくドキュメンタリーなだけにリアルすぎて実に興奮した。
また、追い込まれた国側の苦し紛れの主張に、思わず苦笑してしまう場面などもあったり。

ちなみに、この書籍は全部で約200ページあるのだが、そのうちの約70ページほどが「資料編」として裁判の判決文や国税当局から出された文書等の写しである。
よって、読み物としては実質的には約130ページほどではあるが、それでも充分読み応えはあった。
ちなみに、最初にこの本を手にとった時に後ろの方のページをパラパラっとめくってしまい「なにこれ、ほとんど判決文とかじゃん。意味ねー!」と思ってしまったのも読み始めが遅くなった一因で、今となっては悔やまれる。


しばらく読み進めていくと、第6章第4節に「税理士の責任とは」という箇所がある。
・・・私が思うに、この責任の負担割合は国が6割、保険会社2割、税理士が2割くらいの割合ではないだろうか。
たしかに国がミスリードをしてしまったという事実は重い。
しかし、疑うこともなくそれにそのまま乗っかってしまい、ミスを見逃してしまった税理士も、また保険会社にもその責任は問われるべきだ。・・・
まったくもって耳が痛い・・・・。

確かに普段仕事をしていて「あれっ?」「なんかおかしいな」「これ間違ってんじゃね?」と思うことはしばしばある。
まぁ大概は私が間違っていて、「ゴメ~ン(テヘペロッ」って感じなのだが。
未確認・未解決のものもまず私の勘違いだろう。
でも、それでも、この感覚を大事にし、常に問題意識を持たなければ、と。
この本を読んで改めてそう思った次第。
そういう意味で、背筋をシャンと伸ばしてくれる、そんな一冊であった。


ところで、この話・・・ドラマ化とか映画化されないだろうか。
ここに描かれているのは紛れもなくカッコいい税理士。
そんな税理士が活躍するストーリーをぜひ映像で観てみたいな、と。
「◯撓◯屈」の二の舞にならないことを祈りつつ・・・。
(「不◯不◯」は個人的にはちょっと期待はずれだったので・・・)

ちなみに、税理士が主人公のドラマって「貯まる女」(蘭子=森公美子)くらいしか知らない。
あとは「マルサの女」や「税務調査官・窓際太郎の事件簿」など当局側が主人公の話ばかりで。
あ、それと、カリブでマジシャンで航空機リースな脱税コンサルの、ちっとも共感できない話とか。
あ、そうそう「TAXMEN」、これも当局側が主人公の話だが、コレは面白かった! ある意味。

そんなくだらないコトを考えつつ、今回の記事はこのへんで終わ・・・らない。
まだ終わっちゃいけない。
大事なお知らせがあった。

本件に係る最高裁の判決を受けて、国は従来の誤りを認め、徴収しすぎとなった所得税を還付することとなった。
本来、過去の税額を修正できるのは原則5年分のみ、ということになっていた。
が、本件に関しては特例を設け、取扱変更時(=平成22年)から過去10年遡って(=平成12年分以降)還付を認めることとした。
遡及期間に制限が設けられたことは納税者の立場からすると納得し難いものがあるかも知れないが。
実務的はやむを得ない気もするし、対応も珍しく迅速だったような印象を個人的には受けている。

で、その過去5年を超えて還付を受ける手続き(特別還付金の請求)はずっと認められるわけではない。
あくまでも特例措置であって、その特別還付金の請求期間は平成23年6月30日から平成24年6月29日までの1年間となっている。
つまり、本記事作成時からみてあとおよそ1ヶ月ちょっとしかない。

本事件はテレビや新聞でも報道されているし、さすがに生命保険会社からも案内が来てるはずなので、該当者は手続きが済んでる方も多いかと。
でも、もし万が一まだ手続きが済んでいなかったり、該当するかも知れないが確認していないという方がいたら、ぜひ期間内に確認・手続きをして頂きたいなと。
詳しい解説はこちら(国税庁サイト内)に掲載されている。

江崎税理士、本件納税者の方、そしてこの御二方を支えた善意と使命感と男気に溢れる支援者の方々、皆が勝ち取ってくれたこの権利を無駄にしないためにも・・・。




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